StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

中村孝則

Takanori Nakamura
コラムニスト。1964年葉山生まれ。
ファションやグルメ、旅やワイン&リカーなど、
「ラグジュアリー・ライフ」をテーマに、
新聞や雑誌、TVで活躍中。
現在、NHK BS1「地球テレビ エル・ムンド」
http://www.nhk.or.jp/elmundo/
火曜日レギュラー出演中。
http://www.takanori-nakamura.com

中村孝則

オーレスン 灯台ホテル

まさか、灯台の中に泊ることになるとは思わなかった。ここは、ノルウェーの港街、オーレスンの防波堤の先端に立つ、灯台ホテルである。もっとも、“灯台ホテル”という呼び方は、僕の勝手な言い方であって、「HOTEL BROSUNDET」というのが正式名称だ。このホテルの本館は、町の入り江に面していて、100年前の建物をモダンにリノベーションした六階建てのチャーミングなホテルである。僕のお気に入りのホテルのひとつでもある。46の客室のほかに、カフェや洒落たレストランなども配していて、こぢんまりとした居心地のいいホテルである。はじめて泊ったのは数年前だろうか。その時に、ホテルの女性スタッフとの何気ない雑談の中で、彼女の発した「このホテルの一番高価な部屋が一番狭いんですよね」という一言がひっかかった。高価といえばスイート・ルームに相場が決まっている。そのスイートが一番狭いとはいかなることなのか?実はそれが、この灯台の中に設えた部屋なのであった。その時は先約がいたため見学すらできなかったが、先日ようやく念願かなってステイすることができた。建物は、現役で活躍する本物の灯台である。その真紅の姿は、往来する船にだけでなく、町のランドマークにもなっている(表紙は灯台の近景)。部屋は二層になっていて、一階部分はシャワーブースとトイレで、螺旋階段を上がった二階部分が寝室だ。灯台が円柱型だから両フロアだけでなく、ベッド自体まで丸い!笑えるほど狭いが、一階は床暖房が入り、音響や照明やアメニティなどは申し分ない。しかも、直通の電話一本で美人スタッフがシャンパンまでデリバリーしてくれる。まるでジェームズ・ボンドのお色気の効いたウィットではないか。一泊一組限定。新婚さんやカップルに絶大な人気なのだそう。確かに狭いが、“スイート”であることは間違いなさそうだ。ああ、一人で泊ったのは間違えだったなあ。

Hotel Brosundet