Hunはノルウェー語で彼女のこと、Hanは彼のことです。それぞれに動詞のheterを続け名前をつければ「彼女または彼の名は〜」という意味になります。ノルウェー人は年齢に関係なく、家族でも親しみを込めてHun/Hanを使うのです。そして、このコーナーではノルウェーを代表するアウトドアブランド、HELLY HANSENが似合うフィールドで活躍するHunやHanたちにご登場いただき、その人物像とフィールドワークを伺います。 文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 日本のワイン界に彗星のごとく現れた女性がいます。フランスでワイン造りのすべてを学んで帰国、八ヶ岳山麓にブドウ畑を開き、ワイン醸造所を建造。今年は2010年のミレジムがリリースされ、ワインの美味しさも注目の的に。「猫の足跡」を意味するフランス語、Les pas du chat(レ・パ・デュ・シャ)と名づけられた彼女のぶどう畑で、自然と共生する日々について話を聞きました。
梅雨が明けたばかりの日の午後、真っ青な空と連なるブドウの木々の緑まぶしい光景の中、目の前にいるのは微笑みをたたえた華奢で優美な女性でした。その人、池野美映さんは編集者から転身してフランスに渡り、大学でワインを造るためのすべてを学び、経験を積んで帰国。山梨県の八ヶ岳山麓に畑を開いて今年で5年目、昨年にはワイン醸造所を完成させました。この偉業をほとんどひとりで成し遂げてきた池野さんの来し方を想うと、その並はずれた知力、実行力、努力に感動と尊敬の念を覚えざるを得ません。しかし本人はいたってさらりと爽やか。「自分の中で転機を感じて渡仏したのは、子供の頃から自然が好きで、フランスへの文化的・民俗学的な興味もあり、複雑でどんなにやっても手の届かなそうな仕事は何か、と考えた時、この3つの要素が交差するのがワイン造りだと思い至ったからです。人生の限られた時間を楽しく過ごし、自分が自分でいられる場所で興味を持って前向きに続けられる仕事に苦労はいといません」。彼方に富士山、甲斐駒ヶ岳に北岳と山の眺望にぐるり囲まれた八ヶ岳裾野の丘陵地にあるブドウ畑は全体で3.6ヘクタール。元は荒れ果てていた桑畑を開墾し、石を黙々と拾うことから始まった畑には今、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルローの3種のブドウが健やかに実っています。「ブドウの木は人間に似ています。今この畑で穫れるのは5年目のブドウで人間の5歳と同じ。7~8年でおいしいワインになり、15年で花が咲き、35年ぐらいまでが最盛期。50~60年も経つと含蓄や複雑みがでて、100年では精一杯に実をつけた凝縮された味わいになる。人間にそっくりです」。ブドウはすべて手摘みされ、日本では初めて導入された重力を利用して醸造する完全なグラビティ・フロー・システムにより、2011年ビンテージは約7000本のワインが生産される予定です。「ワインは品種、その年の天候、醸造法、造り手の考えや思想など多様な要素が組み合って反映され、奥が深くて面白いものです。自然が相手だから台風など手の施しようのないこともありますが、日本人は自然と共生した農業をずっと営んできました。今やるべき最善を尽くし、次の一手、それがだめなら次の一手と常に考えて進めています」。「ワインは人そのもの。素直で品があって正直な味がするワインは、造り手に会うとまさにそんな人柄をしています。私は畑に響く蝉の声もすべて含め、強く厳しく、美しくて媚びない八ヶ岳の自然そのものが味わえるワイン、品があって凛としたワインが造れればと思っています」。八ヶ岳の星空、風、陽射し、雪、雨、たまに訪れる小動物の影。私たちはそのすべてを映しだすワインを片手に、この女性の過ごしてきた時間、自然に対峙する姿勢、土地への慈み、ワインへの愛情、謙虚さと輝くような自信、その恩恵に高らかに乾杯し、心から楽しむ他はないようです。毎年ワイン造りが一段落する冬には畑から海へと舞台を変え、ヨットやダイビングを楽しむ池野さん。そんな時に愛用するのはヘリーハンセン。機能美に満ちたウエアは海でも山でも、自分の人生を切り拓いて今を謳歌する女性に頼もしく寄り添い、いっそう輝かせることでしょう。 |
ヘリーハンセン スカンザライトジャケット Color ボーダーネイビー(BN) ¥12,600 フランスの国立モンペリエ大学でフランス国家資格ワイン醸造士(D.N.O.)を取得。
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