StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

 

ダイバシティとは多様性のこと。
社会活動の場では、性別や年齢、人種や民族の違いに使われます。
中でも、いま世界中でテーマになっているのが女性の社会参画です。
その課題に先進国でも真っ先に取り組み、成果を上げている国がノルウェーです。
このコーナーでは、ノルウェーをはじめ、
さまざまなダイバシティの場で活躍するパネリストにご登場いただき、
その活動についてお伝えします。

文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori

女性はより女らしく、男性はいさぎよく。700年の歴史に磨かれた小笠原流の礼法は、
一見、古風に見えて最先端。今日、誰もが幸せになるためのヒントに満ちています。

 

平安時代末期に端を発し、室町時代に弓馬の二法に礼法を加えて伝統の基礎を築いた小笠原流。各時代の天皇との関わりも深く、室町、鎌倉時代には幕府の公式の礼法であり、庶民には遥か遠い世界だった小笠原流礼法は、江戸時代には町人に広まり、明治には義務教育の修身(道徳教育)として採用されるに至りました。時代の流れの中でいつしか「堅苦しい礼儀作法」という印象も与えてきた小笠原流を、本来の「心」に重点を置く姿に戻して普及に努めたのが前宗家、その遺志を受け継いだのが現宗家の小笠原敬承斎さん。700年の歴史の中で初の女性宗家、しかも30歳の若さで就任――これはもう日本史の大事件、とも思われますが、ご本人はいたって自然体。日本のみならず、世界中の「人と人の間を美しい心遣いで繋ぐ」、そんな使命を担う女性が、今に至るまでとダイバシティへの思いを心を込めて語って下さいました。
「幼少からスポーツが大好きで学生時代はテニスばかり、いつも真っ黒で礼儀作法とは無縁の世界、自分が宗家になるとは夢にも思いませんでした。きっかけはイギリス留学で、私自身、日本の伝統文化を誇りを持って伝えられないことにもどかしさを感じ、帰国後、先代の門を叩いて小笠原流の世界に入りました。やる気があるなら支えよう、といわれて副宗家となり、先代の急逝をうけて宗家に就任しました。怖いもの知らずで前進するのみという性格と、周りの方々の支えがあって今に至っています。若く、女性であったからこそ素直にわからないことは教えを請い、学ぶことができました。企業研修の場で時には、女性だからと年配の方々が心を傾けて下さらないこともありましたが、それも大切な経験でした。いまでは直接、人とお目にかかって心が伝わる瞬間を何より幸せだと感じます。700年の歴史の中で小笠原流礼法も時代の流れに即して変化して参りました。時代にふさわしい表現方法に変わらないと伝統も途絶えます。小笠原流の伝書によれば、昔は“聖人”といってすべてに完璧な人を目指そうと記されていますが、やがて、誰にも欲があり、そのうえで”賢人”を目指そう、となります。昔も今も、変わらないのは心。形式に拘泥されず、心で理解していれば答えを忘れても自分で見つけられる、そのことが重要です。日本には古来、慎み、相手をおもんばかって心を伝えるという文化があります。礼法を学んで“自分は知っている”、という態度で振舞うことを小笠原流では「前きらめき」といって戒めています。自分を律し、相手を尊重することが日本のおもてなしの文化。自分をアピールする術をもちながら、こうした心を大切にすれば、日本人は国際人としてさらに活躍できるのではないでしょうか。男女格差については、女性は曲線の美、男性は直線の美というようにもともと違いがあるのですから、互いに認めて敬い、得意な分野を男女が担えば良いのです。女性が男性のように振舞っても美しくありません。女性としての、優しく細やかな心を伝えられる本来の能力を発揮していただきたい。一方、男性はいさぎよさを忘れないことが大切だと思えてなりません。人のせいにしない、後ろ指を指されるようなことはしないという当たり前のことが昨今、忘れられているようにも感じます。人は人と関わらずに生きていかれません。食べる物、自分を支える人、すべてに感謝があってこそ自分の幸せが生まれます。感謝の心があれば人と自然に接し、振舞うこともできます。礼儀作法は堅苦しいものでなく、人間関係を円滑にし、自分が幸せになるためのツールです。多くの人が世界規模で活躍する時代だからこそ、日本人が大切にしてきた美徳を忘れずに、心を磨いていただきたいと願わずにいられません」。

小笠原流礼法宗家。東京生まれ。
小笠原忠統前宗家(小笠原惣領家第三十二世・1996年没)の
実姉・小笠原日英尼公の真孫。
聖心女子学院卒業後、イギリスに留学。
副宗家を経て1996年に宗家に就任し、
700年の伝統を誇る小笠原流礼法初の女性宗家となる。
全国の門下の指導にあたるとともに、
講演や企業研修、執筆活動を通して現代の暮らしに応じた礼法の普及に務める。
『伯爵家のしきたり』、『誰も教えてくれない男の礼儀作法』他、
多数の著書がある。