魚が焼かれている写真 |
大西洋に面するオーレスンは、アールヌーボー様式の建物が立ち並ぶ宝石箱のように美しい街。主にニシン、タラ、サバを獲るノルウェーの巻き網漁業の拠点港であり、世界有数の港町としても知られています。一方、福井県の小浜市といえば、オバマ米大統領と読み方が同じという理由で、大統領選に乗じての町おこしフィーバーが記憶に新しい町。小浜はなにより、若狭湾で水揚げされる身のしまった魚のおいしさでも知られています。若狭は古く奈良時代から平城京に天皇の食材を納める“御食国”として栄え、塩をした鯖を歩いて京都へ運べば、着いた時にはいい塩加減に仕上がっているという、あの「鯖街道」の起点地です。そう、このふたつの港町を繋ぐ主役がサバ。この「浜焼き鯖」こそが、生まれはノルウェー、加工は小浜という身上の逸品です。なぜノルウェー産のサバなのか、小浜で江戸時代から続く水産加工品店「田村長」の六代目、代表取締役の田村仁志さんに聞きました。「かつては小浜港から国鉄の小浜駅まで、トロ箱で運ばれるサバの血で道が赤く染まったというほど、小浜ではサバが獲れていたんです。ところが日本と近隣諸国による乱獲で徐々にサバが獲れなくなり、ノルウェー産を使うようになりました。サバはほどよい脂と身のしまりが大切です。ノルウェー産は日本で獲れるサバよりも脂がのって身が柔らかいのですが、今はそれが日本人にも好まれますし、調理の工夫でほどよい脂加減にできるのです。浜焼き鯖は、丸ごとの大サバに串を打って焼きあげ、焼き上がったらサバを立てて余分な脂を流しながら冷まします。ノルウェー産の大西洋サバはしっかり大きいため火の通りがゆっくりで身が蒸し焼き状態になり、外はからっとして中はしっとり、ほっこりと焼き上がるのです」。北欧出身のサバが、美味を追求する日本の職人技と出逢ってできた名品を楽しめるのは、日本ならではの幸福です。ノルウェーでは厳格な漁獲制限がなされ、近代化された漁業システムは世界最先端。サバのほとんどは輸出され、日本は最大の輸出先だそうです。オーレスンはエコーネス社をはじめ家具製造業の歴史も古い街。港町と家具の関係をたどれば、魚の保存用の樽や運搬用の木箱の製造に端を発しているといいます。古くからふたつの港町の歴史を彩ってきたサバ、その進化した絶妙な味を、21世紀の食卓で楽しみましょう。 |
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取材協力:田村長 |