Hunはノルウェー語で彼女のこと、Hanは彼のことです。それぞれに動詞のheterを続け名前をつければ「彼女または彼の名は〜」という意味になります。ノルウェー人は年齢に関係なく、家族でも親しみを込めてHun/Hanを使うのです。そして、このコーナーではノルウェーを代表するアウトドアブランド、HELLY HANSENが似合うフィールドで活躍するHunやHanたちにご登場頂き、その人物像とフィールドワークを語って頂きます。 たった独りで世界の海を渡る。その苛酷さと栄光を知っている白石康次郎さんは、確信に満ちた笑顔でまっすぐに語ります。今、とても幸せだと。「僕は2回のレースを失敗して徹底的に打ちのめされて、自然観が変わりました。それまでは自分の夢や志というフィルターを通して海を見ていたけれど、それは真実の海ではなかった。海は人間がつくりだしたものではない。その事実に気づいて初めて、あるがままの海と向きあえ、レースでも正しい判断ができるようになりました。自分を捨てて初めて明晰に物事が見えてくる。暑い、寒い、痛いという過酷な実体験を通してそれを知りました。同時にヨットレースで素晴らしいのは、自分を充填できる時間があること。ただ海があるだけ、そこでは深く内面を満たすことができます。僕にとってレースは冒険でも鍛錬でもなく、自己の内面を満たし幸せになるための手段なんです」。2007年の単独世界一周ヨットレース「ファイブ・オーシャンズ」クラスⅠでは2位でゴール。この結果をもたらしたのはウエアの力だったといいます。それはヘリーハンセンを日本で手がけるスポーツアパレル、ゴールドウインと白石さんのコラボによってゼロから開発された、シングルハンド用の完全オーダーメイドウエアでした。落ちたら死ぬという真剣勝負のレースで、ウエアは命を預ける大切な道具。ヨット内部でのナビゲーション中に、もし外でセールが破れたら…そんな事態を想定し、いかに素早く安全に作業できるのかを追求したウエアが、宇宙服の開発も手がける日本の最先端技術で作られました。最大の特徴は、今まで2ピースだったウエアをつなぎ型のワンピースにしたこと。そのため、今までフル装着するのに2分を要していたのが50秒ほどで着られるようになり、命も船も助かる可能性を高めたのです。-15℃~50℃までの温度や苛烈な波での過酷な実験を経てウエアは7版まで更新を重ね、全体で約200ものパーツからなる、赤道用と南氷洋用の2着が完成しました。「ノルウェーも日本も海が厳しく、その中で磨かれたのがヘリーハンセンのウエア。命がけのレースで身体を守り、好成績へと駆り立てるのは、ノルウェーの心と日本の最新技術が融合した、まさに“魂のこもった服”でした」。海で一番簡単なのは死ぬこと。だからこそ宇宙と一体になる大海原の中では、自分が生かされていることを深く実感するといいます。容赦ない波、オーロラ、北斗七星、クジラ…と、たった独りの航海でもさまざまなものと邂逅し、時に羊羹と抹茶で一服しながら大海原を行く白石さん。地上では居合と坐禅で精神を集中させ、私的な活動では子供たちの将来を見据えた多彩な活動を行っています。「レーサーはそれぞれの方法で戦えばいい。西洋のテクノロジーと東洋の思想で戦う、それが僕の個性なんです」。彼の精神筋力と幸福力、ウエアのテクノロジーがこの世にもたらす輝きは、オーロラのように人の胸を打つはずです。 |
1967年 東京生まれ鎌倉育ち。 |
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HELLY HANSENの旗艦店となる原宿店。 |