「シェフズ・テーブル」と題されたこのコーナーでは、いま注目されるシェフや料理人をフォーカスし、彼らの人気の秘密や、料理の魅力について探ります。
ただし、毎回ひとつだけリクエストをお願いすることにしました。それは、シェフたちにノルウェーの海の素材をひとつ選んでもらい、
このマガジンのためだけに特別料理を作って頂くということです。第3回目は、赤坂にある「TAKAZAWA」の高澤義明シェフにお願いしました。
文=中村孝則 text by Takanori Nakamura 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori
◎高澤 義明(たかざわよしあき) |
こうやって写真で見ると、まるで小さなガラスの結晶を詰め込んだ、オールド・バカラのミルフィオリのペーパーウエイトのよう。俯瞰で撮影しているから分かり難いと思いますが、この料理は厚さ3cmほどの円柱形をしています。上部の表面を覆っているのは、ノルウェーの新鮮なサーモン。しかも、フレッシュな状態からマリネ、後に燻製にして薄いスライス状になっています。実は、その下にはサフランで色付けされた酢飯が隠れています。「富山の名物、ます寿しをイメージしました」という高澤シェフが言うように、横から見るとまるでわっぱに詰められた、ます寿しそのもの。「北欧の素材を日本の美意識で表現したかった」と説明しますが、単にアイデアや発想の豊かさだけに収まらないのが高澤シェフの非凡なところ。酢飯と同じくらいに酢を効かせたサフランライスで仕立てたり、イクラを散らして親子丼と洒落てみせたり、そこには高澤シェフらしい美意識やウイットのシンクロニシティも散りばめます。日本のガラス作家に特注で作らせたというガラスの容器の蓋には小さな穴があいていて、サーブする前にそこから藁の煙を吹き込みます。お客様に持ち出された時はガラスを通して煙しか見えません。目の前で蓋が開けられ、藁の燻香とともに中身が現れる、その演出もごちそうです。「藁は米と親子関係ですしね」とシェフ。このあたりのストーリー性も、世界から訪れるゲストたちを魅了するのでしょう。美食の潜在意識のシンクロニシティも呼び覚ます一皿なのでした。
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