StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

 

chef's table

「シェフズ・テーブル」と題されたこのコーナーでは、いま注目されるシェフや料理人をフォーカスし、彼らの人気の秘密や、料理の魅力について探ります。
ただし、毎回ひとつだけリクエストをお願いすることにしました。それは、シェフたちにノルウェーの海の素材をひとつ選んでもらい、
このマガジンのためだけに特別料理を作って頂くということです。第5回目は、「白金台こばやし」の板長、小林和道氏にお願いしました。

文=中村孝則 text by Takanori Nakamura 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori

 

◎小林 和道(こばやし・かずみち)

1970年兵庫県宍粟(しそう)市生まれ。
幼少より母親の料理の手伝いをしていたことがきっかけで、
料理人の世界へと進む。
和食一筋に22年。割烹から会席料理など
ジャンルにこだわらず関西・神戸の名店で修業に励む。
2009年より、66年の歴史を誇る老舗割烹「二幸」の料理長に就任。
2013年11月、港区白金台に日本料理店「白金台こばやし」をオープン。
関西ならではの出汁の繊細さ、素材本来の味を生かした料理は、
「優しい味わい」と、評判。開店後早くも多くのファンを魅了している。

 

◎白金台こばやし

東京都港区港区白金台5-11-3 バルビゾン91 1階 Tel:03-5420-5884
営業時間:
Lunch  12:00〜14:00 (L.O.13:00)
Dinner 18:00〜22:00 (L.O.21:00)
定休日:不定休
http://tokyo-kobayashi.com

和食の伝統とフィヨルドの風景が融合 サーモンのメレンゲ包み焼き

白金台こばやしは、その名のとおり港区白金の閑静な住宅街の一角に、2013年11月28日にオープンした。店の背後には、白金の自然植物園の森が広がっている。店の窓からは公園の上に開かれた青空が見渡せ、港区の料理店とは思えぬ風情を醸し出す。公園には100種を超える野鳥が訪れるというが、宵の口の静寂にはそのさえずりもごちそうになるのだろう。カウンター10席のほか、洒落た個室も配している。その個室は、露地も別になり暗証番号で開く入り口から入室する段取りだ。完全シークレットなおもてなしと、サプライズ的なユーモアも演出する。板場を切り盛りするのは、オーナーで板長の小林和道さん。フロアのサービスとお酒を担当するのが奥様の綾子さん。店の設えや調度、器やメニューの構成なども、お二人で試行錯誤しながら店つくりをしている。小林さんの料理には、素材と献立に対しての的確な調理がある。22年による修業と、元来の実直さが味わいにも滲み出る。細かい仕事の中には、キラリと唸る旨さの素も忍ばせる技も身につけている。例えば、麦秋の季節の掌サイズの琵琶湖産稚鮎は、丁寧に開いて内臓を抜き軽く干して炙って供される。小さい一口は、噛み締める毎に口腔内で鮎の風味が品よく爆発する。「この時期のこの湖産鮎でないと、この風味は出せないんです」。小さい鮎の仕事は手間がかかるが、お客のほころぶ顔を見るのが嬉しいと小林さん。実直な仕事ぶりだが、調理法は、伝統の枠に捕われずに自由に表現したいという小林さんは、ノルウェー・サーモンの一品でも、新しい味を試みている。生のサーモンの風味と食感を引き出すため、切り身を幽庵焼きのレシピにトマトで酸味を加えたオリジナルたれで軽くマリネした。それを、メレンゲで覆って塩竈焼の要領でオーブンに入れて焼き上げた。200度で10分。サーモンの食感はレアだが中心までしっかり熱は通っている。試行錯誤で時間はピンポイントの計算をしている。聞けば、メレンゲの手法はオリジナルで考案したのだという。皿に添えられたちまきはサーモンの押し寿司。淡路産の新タマネギの煮こごりサラダの酸味も食欲を煽る。仕上げに焼き上がったメレンゲを飾れば一幅の絵のようだ。「メレンゲはノルウェーのフィヨルドの氷河を見立てています」と、さりげないウイットも心憎い。