Hunはノルウェー語で彼女のこと、Hanは彼のことです。それぞれに動詞のheterを続け名前をつければ「彼女または彼の名は〜」という意味になります。ノルウェー人は年齢に関係なく、家族でも親しみを込めてHun/Hanを使うのです。そして、このコーナーではノルウェーを代表するアウトドアブランド、HELLY HANSENが似合うフィールドで活躍するHunやHanたちにご登場いただき、その人物像とフィールドワークを伺います。 文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori
ノルウェーの探検家ロアール・アムンセンが人類で初めて南極点に到達したのが101年前の12月。その南極に、篠原洋一さんは日本の南極観測隊の一員として参加、調理担当として2度にわたり滞在しました。南極行きの動機は〝オーロラを自分の目で見たい〟という一心でした。まっすぐ純粋に大きな夢を叶えた人の語る、極地での人間と自然、食の関係とは?
「子どもの頃から料理が好きで、高校時代に独りで日本一周したほど旅も好き。人生のテーマは〝食と旅〟と早くから明確でした。だったらあちこち行かれて食べられる職業に就こうと考えた。恩人との出逢いもあり、自分の夢を周囲に喋りまくりながら、料亭で腕を磨いて10年、29歳で南極行きを実現しました」。約30人でチームを作る日本の越冬隊の毎日の食事は、料理人の腕と心意気に大きく左右されます。何をどう食べさせるのか、料理人のほぼ自由な裁量に任されるからです。「厳しい環境の極地では〝安全は食にあり〟。隊長からは出発前に、食は日々の活動の肝心かなめ、隊の成功は食事次第と釘を刺されました」。料理人によって年間の大まかな献立が構想され、出発前にすべての食材が積み込まれます。料亭の板前出身の篠原さんは季節感を大切に、花見や月見、正月のおせち料理の食材も用意し、太陽が沈む極夜6月に開催される冬至祭には、年間で最大のご馳走、懐石のフルコースで楽しませました。日常の食事もラーメンなら札幌、博多、会津に沖縄、鮨ならニギリに手こね、サンマ鮨と種類も豊富、バーで酒も楽しめて、南極の食事環境は羨ましいほど。料理人の仕事は朝昼晩の食事におやつ、時には朝4時起きでお弁当を作り、夕食後には翌日の仕込みをするなど果てはなし。「料理人は精一杯やって初めて評価される仕事。悪天候で戸外活動できない日にも調理人だけは仕事がある。どこまで料理で隊に尽くせるか、日々、自分との戦いです。料理人の幸福はうまいものを食べて喜んでもらうこと。それに応えられねば意味がない。可能な限りやり尽くしました」。南極暮らしの最大の喜びは、「なにより自然の素晴らしさ。白夜から極夜にかけての四季の移ろい、満天の星々、雪原の割れ目に咲く霜の花、好奇心旺盛なペンギン。何ひとつ感動しないものはありません。オーロラを眺めた翌朝、あれは夢だったんじゃないか…と思います。南極にいたこともまた、夢だったような気がします」。オオカミの毛皮で作った防寒着を着ていたアムンセンの時代から、服は進化して人間に寄り沿い、今はスマートで高機能なダウンやフリースで過ごす南極隊員たち。では南極での食の未来は?「もっと豊かになりますよ、100年経っても人間の食への欲求は不変です」。オーロラが誘う夢を緻密さと勤勉さで叶えた篠原さんは、「小さなあきらめない」を積み重ねれば、望みは何とかなる、と言います。「それでもかなわない事もある。そんな時は船に倣ってほんの少し進路を変えて曲がれば、到達できることもある」。世界が舞台の人生航路は、後に続く人のために大きく開かれ、篠原さんの未知の航路は、オーロラが祝福するかのように輝き続けるでしょう。 |
Helly Hansen Fiber Pile Henry Jacket ヘリーハンセン ファイバーパイル ヘンリージャケット (HE51617) 写真のオレンジの他にネイビー、ブラックもある。 ¥11,550 1962年生まれ、北海道出身。
◎Bar de 南極料理人「Mirai」 横浜市中区吉田町2-7 VALS吉田町 B1 TEL.045-326-6475
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