死ぬまでに、一度は撮りたい被写体はなんですか?
カメラマンについ聞いてしまうのは、仕事柄というより性分なのだろう。
本誌の編集長の堀裕二カメラマンの答えは明確だった。
「天皇陛下とオーロラです」
なるほど、職業人生のテーマにするに相応しい被写体だと思うと同時に、
チャンスとは、シャッターを切る人にこそ切実な才能なのだと痛感もする。
陛下はともかくとして、
その後オーロラのシャッターチャンスは幸運にも巡ってきた。
2011年冬。彼はノルウェーのトロムソに訪れる機会を得たのであった。
私も同行して氷点下の北極圏の夜空に張り込むこと数日間。
はたして、念願のオーロラは現れた。
エメラルドグリーンに騒めく光のシャワーが、
風にそよぐオーガンジーのように天空に揺らいでいた。
幻想的で静謐とした時間であったが、隣の堀カメラマンは苦闘していた。
4〜8秒というスローなシャッター速度の間に、 |
オーロラはカタチを刻々と変化させるから、
想い描くフレーミングすら難しいという。
しかも、肉眼では見えているオーロラの光が、カメラのファインダーを通すと、
ほとんど捉えられないのだ。これには二人して参ってしまった。
旅の途中で出会った、一人のサーメ族の酋長の言葉が引っかかった。
「オーロラは視るものではなくて、読むものだよ。
太陽からのメッセージなのだから」
確かに、オーロラの正体とは太陽が発する
電子や陽子の荷電粒子のプラズマであって、
放電の現象と括れば、Eメイルだって同じリクツなのである。
はたして、帰国後に彼から受け取った写真には、
ご覧のような見事な造形のオーロラが綴られていた。
サーメ族の酋長に言わせれば、
彼が受け取った太陽のメッセージということになるのだろう。
さて、あなたなら、どんなイメージを読み解かれるのだろうか。 |