写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori
2012年11月1日から3日にかけて、ノルウェー王国のイェンス・ストルテンベルグ首相が日本を公式訪問した。訪日中には天皇皇后両陛下によるご引見、野田佳彦総理大臣との会談が行われた。また、2日にホテルニューオータニで開催された、「ノルウェー・日本 ビジネス テクノロジーフォーラム」にも出席され、筆者もご挨拶させて頂く機会を得た。もともと、ストルテンベルグ首相の公式来日は一昨年春に行われる予定であったが、震災の影響で延期を余儀なくされていた。首相にとっても今回の来日は、満を持した想いもあったようだ。この日は、ノルウェーと日本の将来のパートナーシップについて幾つもの持論を長く語って頂いた。再生可能エネルギーの問題や女性の労働参加、ノルウェーの観光や水産物の魅力についても話をされた。筆者にとって、もっとも興味深かったのは「Northern Sea Route」いわゆる北極海ルートのテーマに言及されたことであった。周知の通り、北極海ルートとは欧州と極東を最短で結ぶ北極海の航路のことである。この航路の大部分は北極海の氷に覆われているために、近年までは具体的な航路として想定されていなかったが、皮肉にも温暖化の影響で氷の範囲が減り、近い将来は実際の航行の可能性が現実味を帯びてきているのだ。 |
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これは日本にとってどのような意味を持つのだろうか?マラッカ海峡の海賊に悩まされず物資を欧州から輸送できるメリットもあろう。筆者などは、欧州のワインも赤道の熱で劣化しないから、ますます旨くなるだろう、などとヨコシマな考えを抱いたが、コトは単純ではない。多くを輸入に頼る日本にとっては、地政学上のメリットだけでなく、エネルギーや食糧、安全保障にも関わる重要な問題を孕んでいるのである。ストルテンベルグ首相は、この課題についても日本とノルウェーの前向きなパートナーシップを期待しているのであった。ところが、日本の国土交通省などは2012年8月3日に、北極海ルートの本格利用を目指す検討会の、しかも初会合を開いたばかりなのである。日本人はもともと北ルートの意識が薄いといわれるが、日本はことこの案件に関して中国や韓国に、遅れを取っているのである。ストルテンベルグ首相が言うように、ノルウェーはエネルギー先進国というだけでなく、豊富な水産資源も持っている。北極海ルートが現実になれば、ロシア以外で、日本からもっとも近い欧州の国がノルウェーになることを改めて認識してほしい。自ら都内の回転寿司店でノルウェーサーモンの魅力をアピールする首相は、サーモンの美味しさだけを伝えに来ているのではないのだ。 |
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Mr. Jens Stoltenberg
◎イェンス・ストルテンベルグ氏
ノルウェー王国首相
1959年オスロ生まれ。オスロ大学経済学部卒業。1990年から91年まで環境副大臣を務め、90年代は産業エネルギー大臣、財務大臣、国会エネルギー・環境委員会委員長などを歴任。2000年3月から2001年10月まで首相となる。2002年からは労働党党首を務め、2005年からふたたび現職に就いている。家族構成は、イングリッド夫人との間に一男一女。 |