ノルウェーの「ナショナル・ツーリスト・ルート」(National Tourist Routes)、通称「寄り道プロジェクト」(Detour)の 文=中村孝則 text by Takanori Nakamura |
「ナショナル・ツーリスト・ルート」とは、ノルウェー国内に、18カ所の観光(ツーリスト)ルートを設け、道路建設や整備とともに、デザイン性の高い建造物や展望台、休憩所をつくり、内外から観光客を誘い込もうというものです。道路建設や公共事業と観光開発が、国レベルで共同運営しているというのがユニークなポイントです。観光事業はノルウェーにとって、石油・ガス開発、漁業に次ぐ、国内第三の主要産業へと成長しつつあります。そのために道路や景勝地の開発と整備などは、さしせまった課題でもありました。そこでノルウェーでは、観光誘致をハコモノ的な発想やバラマキ的な公共事業ではなく、“デザイン”をテーマにしたのです。まもなく、その全18ルートは完成を迎えますが、その画期的な取り組みに各国から熱い視線が向けられています。 |
このルートだけでも「寄り道プロジェクト」そのものの革新性やオリジナリティの高さを推察することができるでしょう。実際の開発を進めるにあたっては、プロジェクトごとに入念なコンペが行なわれ、建築家やデザイナー、アーティストなどの建築関係者が選出されました。コンペの審査基準は、環境に配慮することやデザイン性に溢れていることはもちろんですが、面白いのが「大自然をどれだけ体感出来るか」という項目が設けられていることです。コースごとに「崖のすぐ目前まで」とか「なるべく滝のそばへ」、「自然の傾斜のまま歩く」など具体的な課題が与えられました。もっとも、日本であれば“危険だから”とか“不便そうだから”という理由で、建築許可すら下りそうもない建造物も少なくないでしょう。しかし、ノルウェーでは、日本よりはるかに自己責任の考え方が徹底しているのです。ツーリズムにとって娯楽性と安全性への配慮は、諸刃の剣ですが、このプロジェクトは、そうした哲学的なテーマにも踏み込んでいるのが特徴です。開発にあたってはデベロッパーや建築家だけでなく、考古学者や生物学者やランドスケープアーキテクトといった各分野のエキスパートがタッグを組んで、時間をかけて進めています。
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◎Trollstigplatået, Geiranger-Trollstigen 建築家 : Reiulf Ramstad
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◎Ørnesvingen, Geiranger-Trollstigen 建築家 : 3RW-Jacob Røssvik
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◎Trollstigen, Geiranger-Trollstigen 建築家 : Reiulf Ramstad Arkitekter AS
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◎Gudbrandsjuvet, Geiranger-Trollstigen 建築家 : Jensen and Skodvin
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◎Stegastein, Aurlandsfjellet トステガステン(アウルランフィヨルド) 建築家 : Todd Saunders/Tommie Wilhelmsen |