Hunはノルウェー語で彼女のこと、Hanは彼のことです。それぞれに動詞のheterを続け名前をつければ「彼女または彼の名は〜」という意味になります。ノルウェー人は年齢に関係なく、家族でも親しみを込めてHun/Hanを使うのです。そして、このコーナーではノルウェーを代表するアウトドアブランド、HELLY HANSENが似合うフィールドで活躍するHunやHanたちにご登場いただき、その人物像とフィールドワークを伺います。 文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori
横浜郊外の静かな環境の中、よく手入れされた美しい家で小鳥が訪れる庭を眺めながら、窓辺の作業机に向かい、茶杓をはじめ多くの道具を生みだす魔法の手を持つ海田さん。心を奪われる数々の作品を創作する、茶人の日常を聞きました。
茶杓とは、竹で作られた細長い小さな匙で、抹茶をすくう時に使われる道具です。数多くある茶道具の中でも、茶杓は古来、茶人自身が作るものとされ、作者の嗜好や性格が映しだされるため、茶道具の中で最も人間味を帯びたものといわれます。海田さんは若いころから茶の湯に触れ、身近に窯元があったこともあり、最初は茶碗を集め、作りもし、やがて茶杓を独学で作るようになりました。「茶会をする時に茶杓が必要でしょう、でも売っている茶杓はつまらないし、いいと思う茶杓は200万円もして、自分で作るしかないと思って削り始めたんです」。以来、独自のお茶の世界を深め、茶会も重ねてきました。海田さんの茶杓は独創的なことで知られていますが、茶会もまた型破り。「気楽にやりますよ。友人の別荘を訪ねた時や山歩きのついでや海外でもね。道具が好きだから茶会をやるんです」。パリでの茶会では、のみの市で釜や建水や水指になるものを探して見立てて使い、ロワールの城で開いた茶会ではワインクーラーを建水に、大きな香水瓶を横にして菓子器に、モロッコの琥珀の宝石入れを茶入れにと、自由でかっこよいのです。茶会のテーマも「パリの屋根の下で」、「翼があれば」と楽しく詩的。海田さんの茶杓はすべて、古い民家の屋根裏や天井からとれる200年ほどの年月のたった煤竹で作られます。ある時はきれいな、ある時は荒々しいもの、虫食いの大穴のあいたものをと、作る茶杓にも変遷があり、まずはそのための竹を探す作業から始まります。削って曲げ…と遠大な作業で1本の、海田さんの美学と宇宙が詰まった茶杓が生まれます。「毎朝、1時間ほど山や川辺を散策します。どんな草花が咲いたかを眺めたり、尺八を川のほとりで吹いたり。僕のやっていることはすべて自然の中に身を置かないと感覚的にできない作業です。物を作っていると1週間が3日しかないと思うほど時間が足りません。本を読んだりさまざまなものを見たり、自分のために使える時間が欲しいですね。茶杓には銘を付けるでしょう、そのためには古典を読んだり自然に触れたり、多様な体験をして内面を充足させる必要があるんです」。その銘は、その茶杓を使う人の心境だったリ、竹そのものから感じられるメージであったりします。銘の一例は、「一目惚れ」、「いそいそと」、「片えくぼ」。真ん中で組み立てる仕組みの対になった茶杓は銘も対で「花は香り 鳥は歌」という具合です。海田さんは茶杓の他、釜や茶碗を作り、茶籠を編み、作れるものは何でも作り、そのすべてが驚嘆すべき精緻さと美しさと品格を備え、なによりお茶や人生や暮らし、物や自然への愛にあふれていることに感動します。「自分で一番いいものを使いたいから、材料も貪欲に探し贅沢に手間とお金をかけるんです」。普通の人には底知れず深い茶の湯の世界ですが、「お茶は遊び。楽しいのが一番」と明快です。奥さまはお茶の袋物や仕覆の作家であり、著書も多数ある上田晶子さん。実に贅沢三昧な人生を送る人は、着物も似合えばボーダーの長袖Tシャツにネイビーの上着も着こなして、どこまでも自由で魅力的です。 |
Hague Jacket ハーグジャケット ¥18,900 1946年生まれ、福岡県出身。
|