StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

中村孝則

Takanori Nakamura
コラムニスト。1964年葉山生まれ。
ファションやグルメ、旅やワイン&リカーなど、
「ラグジュアリー・ライフ」をテーマに、
新聞や雑誌、TVで活躍中。
現在、NHK BS1「地球テレビ エル・ムンド」
http://www.nhk.or.jp/elmundo/
火曜日レギュラー出演中。
http://www.takanori-nakamura.com

中村孝則

◎The Norwegian Opera & Ballet
白大理石を使った斬新なデザインを誇るオペラハウス。
オペラ、バレエ、コンサートなど、

さまざまな演目が楽しめる。
Kirsten Flagstads Plass 1
○チケット予約 TEL+47 21 42 21 21
http://www.operaen.no

 

日本人ばなれした伸びやかな肢体は、爪の先の数ミリまで感受性が研ぎすまされている。繊細でたおやかな表現を折り重ねながらも、湧き上がるようなエネルギーで、オペラ・ハウスの会場全体を包みこむ。バレエに精通していない人であっても、西野麻衣子さんの踊りを一目見れば、魅せられてしまうのではないだろうか。先ごろオスロではじめて西野さんの舞踏を拝見して、すっかりファンになってしまった。西野麻衣子さんは、大阪生まれの日本人。現在は、ノルウェー国立バレエ団のプリンシパル、いわゆるファースト・ソリストである。活動の本拠地は、オスロのオペラ・ハウスだ。バレエは、6歳から地元大阪のバレエスクールで学ぶ。1995年にイギリス・ロイヤルバレエスクールに留学。1999年には、ノルウェー国立バレエ団に入団をする。2005年、25歳という若さで東洋人として初めて同バレエ団のトップ「プリンシパル」に抜擢されると、頭角を現すようになる。古典からモダンまで、その幅広い表現力が認められて、同年5月にはノルウェーで芸術活動に貢献した人に贈られる「評論文化賞」までも受賞した。今や、ノルウェー人で彼女を知らない人は、芸術という存在を知らない人くらい、いない。とりわけ地元オスロっ子にとっては自慢のプリマでもある。
そもそも、世界で数あるバレエ団のなかで、どうしてオスロ国立バレエ団を選んだのだろうか?「バレエ団を探していた時に、たまたま今のバレエ団の募集を知ったんです。しかも、ダンサーにとっての条件が他と比べてもすごくよかったので受験することにしました」。1999年に見事に入団を果たして「現在は、バレエ団と永久コントラクトを結んでいます。ここの契約は、お給料の保証だけでなく、色々な福祉も受けられるんです」。仮に現役を引退したとしても、41歳からは年金も受けられるのだとか。現在、同バレエ団には6人の日本人永久契約ダンサーがいるそうだ。「世界一、ダンサーが優遇されるバレエ団かもしれません。他の団体のダンサーには申し訳ないくらい恵まれていると思います」と、屈託のない大阪弁で笑う。
もっとも、ダンサーとして登り詰めるには、相応の試練も必要だった。西野さんも入団してしばらくは脇役に甘んじることが続いたそうだ。転機が訪れたのは2003年秋。公演中の舞台の主役が怪我をしたために、翌日の代役を頼まれたのだ。ところが、西野さん自身も足の親指を怪我して大きく腫れていた。しかし、不安を断ち切って見事に踊り切ったそうだ。2008年4月には、オープンしたばかりの現在の国立オペラ・ハウスのこけら落とし公演の主役を演じ、ハーラル5世国王のご臨席も賜った。「それも、バレエ団の支えがあってこそ。このオペラ・ハウスには1,100の部屋があって、4カ所のバレエ専用ルームをはじめ、衣装室や大道具・小道具の制作部屋、ジムやサウナやマッサージルームまでついているんです」。実は、西野さんのご主人のニコライさんは、オスロ・オペラハウスの芸術監督を務めているそうだ。「だから、私たちにとってこのオペラ・ハウスは、城のような存在ねって、言い合っています(笑)」。2013年6月にはメインホールで開催される「眠れる森の美女」のオーロラ姫役など、様々な舞台も決まっている。機会があれば、ぜひ彼女の公演を、地元のオスロのオペラ・ハウスでご覧いただきたいと思う。

 

 

 

◎西野麻衣子(にしのまいこ)
6歳から大阪の橋本幸代バレエスクールで学ぶ。
1995年 イギリス・ロイヤルバレエスクールに留学。
1998年 ロイヤルバレエスクール卒業公演で
「ジゼル」2幕のパ・ド・ドゥを踊る。
1999年 ノルウェー国立バレエ団に入団。
2005年 同バレエ団ファースト・ソリスト(プリマ)になる。
主役デビューの「白鳥の湖」全幕でオデット・オディールを
演じわけ高く評価され「評論文化賞」を受賞する。
以後バレエ団のレパートリー全てに主演。
2008年 新しく建てなおされたノルウェー国立バレエ団のグランドオープンでは
ジリ・キリアン作品「WORLD Beyond」のメインキャストを踊る。
現在、同バレエ団の永久契約ダンサーとして精力的に活動中である。