StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

 

「シェフズ・テーブル」と題されたこのコーナーでは、
いま注目されるシェフや料理人をフォーカスし、
彼らの人気の秘密や、料理の魅力について探ります。
ただし、毎回ひとつだけリクエストをお願いすることにしました。
それは、シェフたちにノルウェーの海の素材をひとつ選んで頂き、
このマガジンのためだけに特別料理を作って頂くということです。
第一回目は、西麻布「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフにご登場頂きます。

文=中村孝則 text by Takanori Nakamura 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori

◎生江史伸(なまえしのぶ)
1973年 横浜生まれ。慶応義塾大学卒業後、都内イタリア料理店で基礎を学ぶ。
2003年 「ミシェル・ブラス・トーヤ・ジャポン」入店。
その後、フランス・ライオールの本店にてミシェル・ブラス氏に師事。
2008年イギリス「ザ・ファットダック」(ミシュラン3ツ星) に入店。
スーシェフ、及びパティスリー部門を担当。
2010年 9月「レフェルヴェソンス」を立ち上げる。
◎レフェルヴェソンス
東京都港区西麻布2-26-4 Tel:03-5766-9500
営業時間:Lunch 12:00〜16:00(13:30 L.O)

      Dinner 18:00〜23:30(20:30 L.O)
定休日:月曜日を中心に月6日(ホームページで要確認)

http://www.leffervescence.jp

 

丸く白い皿には、主役のサーモンを中心に、モリーユ茸やアスパラガスなどでシンプルに構成されています。サーモンの下には、若草色のソースが描かれ、周りには土色の粒が散りばめられています。生江シェフによると、ノルウェーの春の大自然からイメージを構築したといいます。「黒い粒の正体はブラックオリーブで、ノルウェーの森の土を表現しています。泡には海藻とモリーユ茸のエッセンスを封じ込めました」。そう聞くと、この皿の香りがフィヨルドから漂う匂いのハーモニーのようにも思えて来ます。ノルウェーにはまだ行ったことがないという生江シェフ。イメージの核となったのは、ノルウェー産のサーモンでした。「このサーモンは、ノルウェーから生のまま日本に空輸されています。変な話ですがパリより新鮮かもしれませんね。その素材のフレッシュな持ち味を生かしたかった」。そのためサーモンには、ギリギリの火入れがなされています。口に入れると表面こそグリルしたような熱を感じますが、身の内部からは生の食感と旨味が滲みでます。食感は生だが、たしかに温かな料理を食べているという心地よさ。生江シェフの手腕が光ります。この調理のポイントは「焼かれていながらも、サーモンの水溶性のタンパク質と旨味をどう閉じ込めるかということ」だとシェフ。そのため、サラマンダー内の温度や時間、さらにはサーモンを置くボジションを微妙に調整しながら、ゆっくり調理していく。そうすることで、サーモンの表面の油は熱せられて、中心部はフレッシュな水分を逃すことなく味覚の快感の際まで温められ、旨味が引き出されます。「僕の料理は、素材ありきの料理」という生江シェフ。「何よりも素材のclarity――清澄さを大切にしたい。素材になにかをかぶせるより、切り取るイメージでしょうか」。その源流にあるのは、修業時代にミシェル・ブラスのもとで学んだ“自然への畏敬の念や好奇心”なのかもしれません。少なくとも、この一皿には、ノルウェーの混じり気のない大自然の息吹を感じるのでした。