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赤、橙、黄橙。まるで柑橘系の色相環のお手本のようである。
これは、ノルウェー王国を代表する港街、ベルゲンの埠頭に立ち並ぶ、
ブリッゲン地区の木造建築群である。
ブリッゲンの歴史は古く、ベルゲンがハンザ同盟の交易の拠点となった、13世紀まで遡るという。
木造建物自体も800年以上受け継がれている。
もっとも、木造ゆえ何度も大火に見舞われていて、その度に再建されている。
ユニークなのは、同じく幾度となく火災に見舞われたオスロでは、中心部の木造建築を禁止してしまったが、ベルゲンでは頑に木造建築の伝統にこだわっていることである。
古都の矜持といえばそれまでだが、日本の奈良や飛騨高山といった名刹に通じる伝統保存の美意識を感じるのである。
1979年には、ユネスコの世界遺産にも登録されている。
さて、こだわりといえば、見事なほど柑橘系で統一されていることだ。
僕だけでなく、多くの人がその色彩の理由を知りたいと思うだろう。
ベルゲンへはいつもクルマを使ったが、はじめて船で入港したときに、はっと閃いた。
ブリッゲンの色は、フィヨルドの色に対してのコントラストなのではないか、と。 |
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ベルゲンの港はフィヨルドの奥に位置する。
船は自ずと翠の山稜と紺碧の海岸のフィヨルドを長々と航海することとなる。
ようやく辿り着いた憧れの港街は、暖色に燃え輝いていたとしたら――。
これは補色を使った視覚的効果ではないかと直感したのである。
補色とは、色相環でいうところの正反対の色の組合せのことだ。
例えば、赤と青緑、橙と青、黄色と青紫などは補色同士だ。
ブリッゲン地区の建物は、フィヨルドの青系クール色に対して、
あえて補色の柑橘系ビタミン色に対比させているのではないだろうか?
補色同士はお互いの色を引き立て合うからである。
もっとも、これは僕の空想に過ぎず、色彩の本当の理由は、
黄色のペンキが安かったとか、
時の統治者の彼女が赤好みだったとかかもしれないが、
少なくともこの建物がハンザ同盟の中心地として、
欧州4大重要港として君臨してきたベルゲンのイメージ戦略に、
大きく貢献してきたことだけは、確かなことである。 |
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