ダイバシティとは多様性のこと。 文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori |
大田区千鳥。ここは中小の町工場が立ち並ぶ、世界的にも名高い精巧なニッポンのモノづくりの現場です。ネコが路地にのんびり寝そべるのどかな昼下がり、この地に工場を構えて半世紀になるダイヤ精機の人々は、無数の図面や工具や機械の間で、黙々とそれぞれのペースで仕事をしています。熟練の技術者の隣で華やかな笑顔を振りまくのは、代表取締役の諏訪貴子さん。町工場社長のお嬢さんとして生まれ、チャキチャキの女の子だったかと思えば、「人と話すのが苦手で、ひとりで鉄棒している暗い子でした」。ところが小学時代、学校一のいじめっ子の隣に座らされ、芯の強さを発揮して取っ組み合いでやり合ううちに、自己主張する強い女の子になりました。兄が夭折したため貴子さんは父親からは男の子として、厳しくも深い愛情を注がれ育てられました。大学は工学部以外行ってはならぬと告げられ、従い、大手会社に就職、エンジニアとして働き、結婚出産。息子が誕生して工場の跡継ぎの道筋もつけられ、お役御免と思ったのも束の間、父親の急逝で波乱万丈の人生は大転換期を迎えます。父亡き後、すぐに後を継いで町工場社長に就任。社内に新風を吹き込み、精密金属加工を得意とする一貫加工メーカーとしてベテラン技術者と共にさらに技術を磨き、車関連から医療業界など他分野にも製品作りの幅を広げています。「イチかバチかで始めた経営者です。父と働いたこともなく自分のやり方でやるしかない。当初、従業員には反発され、テメエこのヤローでやり合いましたが、それがあって今がある。所詮、二代目だし娘だし、つぶれるだろうと周囲は見ていて、従業員に申し訳ないと思っていました。でも社長はたまたま女ってだけで、男より男らしいっすよ、と言われ、社員はまったく気にしていなかった。嬉しかったと同時に、先代が育ててきた世界に誇る技術を残さなければという使命感でいっぱいでした。もともとエンジニアですから、物事には原理原則がありその上に基本がある。基本があって応用があり、問題が起これば原理に立ち返って考える、それでダメなら別の方法を、という論理思考のもとで経営をしています。一方、判断の基準はすべて面白いか面白くないか、楽しめるか楽しめないか。品質にとことんこだわるモノづくりが楽しいから、努力は惜しみません。鉄削り屋の誇りです」。おとなしかった女の子は、歴代総理に要望を突き付け、自民党代議士を前に講演する経営者に成長。自社の製品と社員を心から愛するからこそです。ダイヤ精機は独自の人材育成でも知られています。採用時に人を見るポイントは、「人と素直に話せる人。ヒューマンスキルがある人。どんな反応でもいいから反応して対応する人。職人は教えてくれませんから自分から聞かないと技も仕事も身に着かないからです」。 |
ダイヤ精機株式会社 代表取締役 。 |