[JØTUL/ヨツール] http://jotul.co.jp 時代の荒波にもまれて、その炎は大きく燃えたり、小さなともしびになったり。 文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori |
ノルウェーで鋳物のストーブが造られたのは1500年代末のことで、それがこの国初の近代工業となりました。薪を燃やして暖をとる、この原始的な暖房の手法が洗練を重ね、21世紀の今も魅力的で環境にも優れた暖房法として注目され、あたたかな空間を創造しています。世界有数のストーブ製造会社、ヨツール社は北国の人々をあたため続けて160年。ヨツールの軌道は1853年、農家出身のオールフ・オンスムがオスロ近郊に鋳鉄製品を造る会社を興したことに端を発します。1900年にはノルウェー最大の薪ストーブ製造企業へと成長し、新しい製品へも分野を広げます。その結果、薪ストーブ製造工場は売却され、若干26歳のハーマン・アンケルという若者の手に渡りました。彼はノルウェーの伝統ある鋳物を残し、鋳物ストーブの美しさと品質を確立すべく市場開拓や営業手腕を発揮して工場を発展させ、その優れた才覚が今日のヨツールの基盤ともなりました。1920年代には世界恐慌のあおりでヨツール社も倒産の危機に直面、危機を救ったのはヨハネス・ガーという人物で、巧みな舵取りで会社を成長させ、ヨツール社は再びノルウェー屈指の薪ストーブ製造会社へと返り咲きました。薪ストーブの需要は石油、灯油、電気などの新エネルギーの登場で減少傾向にあったものの、第二次世界大戦後もヨツール社は成長を続けます。戦後は液体燃料を使う暖炉が主流でしたが、1970年代には様々な要因から石油の供給が難しくなり再び薪燃料の需要が増加。新たな可能性が開け、再度、薪ストーブがヨツール社の主要製品となりました。1977年に世界的企業ノルセムに売却されると輸出にも重点が置かれ、ヨツール社は世界的ブランドの地位を確立。160年の時を経て、野性的で牧歌的な火の暖は、ヨツール社の徹底した環境への配慮によってクリーンに、デザインは一層スタイリッシュになって世界40カ国で愛されています。ノルウェーでは住宅には必ず煙突を設置するという建築条例があるそうです。電気もガスも止まり、石油が不足しても薪があれば大丈夫。北国の冬、あたたかい家は命を守るシェルターであり命に関わることゆえです。炎もさることながら、炎を抱く美しい鋳物の素肌にも魅せられます。鋳物ゆえレリーフも精巧に表現され、クラシックなデザインのストーブの側面にはノルウェーの動物、自然、人々の仕事が描かれていたり、古いノルウェー語の文字も刻まれています。「一日が終わり、夜遅く、種火に灰をかぶせる。神よ、私の火が決して消えることのないように」。ヨツールが創造する炎も消えることなく、地球と呼応しながら、この先の世紀に向かって燃え続けるでしょう。 |
本社工場に設置された昔の薪ストーブの前面。細かなレリーフが美しい。
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