トーレ・ヘイエルダールという名前は知らないという人も、コン・ティキ号の大冒険と聞けばピンとくるだろうか?
トーレ・ヘイエルダールは、1914年生まれのノルウェー人。人類学者にして海洋生物学者、そして探検家である。1947年、ヘイエルダールは歴史に残る大冒険を成功させ世界中を驚かせた。それが、コン・ティキ号と名づけられた筏による、8000kmの命がけの航海であった――。この映画は、その実話をもとにしたドキュメンタリー映画である。この大冒険の記録は、『コン・ティキ号探検記』として、ヘイエルダール本人によって1948年に執筆され、世界中に翻訳されている。なんと累計は5000万部で、彼は、20世紀有数のベストセラー作家になっている。その意味でも、ノルウェーでは英雄なのである。僕も、学生時代はこの本に少なからず影響を受けた一人である。一昨年、僕が担当していたNHK BS1の『地球テレビ エル・ムンド』では、地中海クルーズ航海の特番を制作したが、個人的にはヘイエルダールの航海が、海への憧れのきっかけ与えてくれた気がする。その物語が、本格的なドキュメンタリー映画として現代に蘇るというのだから、胸がふつふつと昂ぶろうというもの。実はこの航海を描いた映像は、一度だけドキュメンタリー『Kon-Tiki』として制作され、1951年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞も受賞している。それから60年以上を経て、再び世界中を感動の渦に巻き込もうとしているのだ。
試写を拝見したが、冒険の詳細を初めて知ることができて新鮮な感動を味わえた。知っているつもりの歴史的な冒険の裏には、これほど過酷で感動的なドラマが起こっていたとは……。いい意味で心地よく裏切られたのであった。ストーリーは、ヘイエルダールの自伝的な内容になっている。当時から「南太平洋のポリネシア人の祖先は、アジア人であるという」という歴史的な定説があった。それに真っ向から対立し「ポリネシア人の祖先はアジアではなく、南米のインカ文明の末裔である」という自らの仮説を証明すべく、1500年前の筏を再現して航海することで、学説を証明しようとする実話である。ただの冒険ではなく、歴史アカデミズムの論争を巻き込んだ男の挑戦というところが、ミソになっている。まあ、これ以上はネタばらしになるので、是非映画館で楽しんでいただきたいと思う。が、ひとつ読者に追加でお伝えしておきたいのが、ノルウェーのオスロ郊外にある「コン・ティキ博物館」である。(http://www.kon-tiki.no/)こちらには、ヘイエルダールが航海に使ったコン・ティキ号の実物が展示されている。日本人にはあまり知られていないが、もしオスロに行く機会があれば、ぜひ訪ねて欲しい。よくもまあ、このような筏で8000kmも航海ができたものだと、冒険のリアリティをより体感できるだろう。でも、まずはその前に、実話とは思えないほどのスリリングなストーリーを、劇場でご覧いただきたいと思う。
|
|
©2012 NORDISK FILM PRODUCTION AS
◎コン・ティキ
第85回アカデミー賞、第70回ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされ、本国ノルウェーでは記録的ヒットとなり、社会現象にもなった映画『コン・ティキ』。2013年6月29日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、渋谷TOEI他にて全国公開される。
http://www.kontiki.jp
|