Hunはノルウェー語で彼女のこと、Hanは彼のことです。それぞれに動詞のheterを続け名前をつければ「彼女または彼の名は〜」という意味になります。ノルウェー人は年齢に関係なく、家族でも親しみを込めてHun/Hanを使うのです。そして、このコーナーではノルウェーを代表するアウトドアブランド、HELLY HANSENが似合うフィールドで活躍するHunやHanたちにご登場いただき、その人物像とフィールドワークを伺います。 文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori
1962年京都生まれ。高校卒業後、
◎「御室 さのわ」 |
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21世紀に現れたダ・ヴィンチのような多才なクリエーター、堀木エリ子さん。
転機は、銀行から和紙の商品開発会社に経理事務として転職した時でした。そこで見た、底冷えする工房で黙々と紙を漉く和紙職人の姿に衝撃を覚え、和紙の世界に入った堀木さん。時代の流れの中で衰退していく和紙を何とかせねば、と決意してから今年で26年。図面も読めず、デザインの仕事経験もなく、経営の知識もないところからスタートした堀木さんが、強い使命感を胸に前人未到のことを成し遂げ、世界的なクリエーターとなったことは周知の事実です。並大抵でない意志と実行力だったはずですが、「問題意識を持ってひとつひとつ解決してきただけ。自然な流れです」と軽やかに語ります。「革新的な和紙とよく言われますが、新しいものを創るために常に原点に立ち戻ります。原理原則を考え抜けば今までにない手法が見つかり、新しい創作にも繋がっていく。出来る前提でしか物事を考えません」。簡潔で力強いその流儀で走り続け、特許を取るほどの新技術を生みだし、斬新で魅力的な和紙を創作してきました。和紙制作の拠点は2ヵ所あり、福井の工房では職人とのコラボで昔の技を未来に繋ぐ作品を、京都では大きなもの・立体的なものを革新的な手法で、将来の伝統を育てる活動をしています。明確に分けることで広範囲に活動しても軸がぶれず、「堀木エリ子にしかできない和紙の創作」を実現しています。その創作と思考の根底にあるものとは。「自然への畏敬の念、人間の命に対する祈りです。和紙作りは100%思い通りにはならないもの。その時々の水の流れや10人の漉き手の息づかいや動きといった偶然があって完成します。そうした自然が生む偶然もデザインとして計算し、作品を完成させます」。ここ数年来、日本海に面した京都府宮津に別荘を持ち、週末を過ごすようになって、さらに自然に学ぶことも多くなったといいます。「海、空、緑。雲の流れ、季節ごとの風。紺色から瑠璃色へと染まり、一瞬、無になる日本海の夕暮れの美しさ。自然は、無数の造形や感動的な色の宝庫です。天橋立を眺めながら蒲鉾をかじってシャンパンを飲んで(笑)。自然にいやされて、次の出発点に立つ力をもらいます」。夢を言葉にして人に伝え、実現させてきた堀木さんの今の夢は、「和紙で培った手法を多彩な業界で活かすこと」。その言葉通り、空間全体の設計からチョコレートのパッケージデザインまでワクワクする仕事を実現し、堀木さんの宇宙は広がっています。堀木さんは背筋のピンと伸びたシャープで美しい人。その素顔は、お酒も楽しみ朗らかにくつろぎながらも、人をもてなす時、たこ焼きパーティなら和風、中華風、イタリアンの変わり種をずらりと揃え、壮麗なテーブルに仕立てずにいられないほど、遊びにもとことん完璧な愛とサービス精神にあふれる人。自利でなく利他をモットーに自己の芸術を突き詰め、言葉が織りあげた夢を実現させ、その成果でまた私たちを感動させるに違いありません。 |