StyleNorwayWebMagazine 【スタイルノルウェー】

 

Hunはノルウェー語で彼女のこと、Hanは彼のことです。それぞれに動詞のheterを続け名前をつければ「彼女または彼の名は〜」という意味になります。ノルウェー人は年齢に関係なく、家族でも親しみを込めてHun/Hanを使うのです。そして、このコーナーではノルウェーを代表するアウトドアブランド、HELLY HANSENが似合うフィールドで活躍するHunやHanたちにご登場いただき、その人物像とフィールドワークを伺います。

文=山岸みすず text by Misuzu Yamagishi 写真=堀裕二 photograph by Yuji Hori

 

1962年京都生まれ。高校卒業後、
4年間の銀行員生活を経て和紙創作の世界へ。
1987年SHIMUSを設立、2000年に現在の会社を設立。
「建築空間に生きる和紙造形の創造をテーマ」に、
2700×2100mmを基本サイズとした大型のオリジナル和紙を制作。
成田国際空港、フランス大使館大使公邸、東京ミッドタウン・ガレリアなど
多くの公共施設、商業施設、ホテル、病院などの建築空間で作品を展開。
和紙を活かした居住空間をトータルでコーディネイトする
別荘や住宅の設計デザインも手がけている。

 


 

◎「御室 さのわ」
堀木さんの作品がある京都のカフェ「御室 さのわ」。
西日が当たる窓辺に光の乱反射をテーマにしたタペストリーが設置され、
さらにカウンターをはさんで、水滴で和紙に穴を空けた
大胆なスライディングドアが重ねられている。
カフェでは日本茶とウィーン菓子などを楽しめる。
京都市右京区御室竪町25-5 デラシオン御室1F Tel:075-461-9077
http://www.sanowa.shop-site.jp

W Jule Jacket ジュールジャケット(HB) 24,150円
W L/S Border Boatneck ロングスリーブボーダーボートネック(ZD) 7,140円

 

21世紀に現れたダ・ヴィンチのような多才なクリエーター、堀木エリ子さん。
先人の素晴らしい知恵で生みだされた強度のある和紙を衰退させることなく、
次世代に繋げたい。その一心で和紙の世界の新しい扉を開け、
可能性を探り、和紙の魅力を広く伝えてきました。
情熱をほとばしらせながら進化し続ける堀木さんに、
活動拠点の京都の工房で創作の背景を聞きました。

 

転機は、銀行から和紙の商品開発会社に経理事務として転職した時でした。そこで見た、底冷えする工房で黙々と紙を漉く和紙職人の姿に衝撃を覚え、和紙の世界に入った堀木さん。時代の流れの中で衰退していく和紙を何とかせねば、と決意してから今年で26年。図面も読めず、デザインの仕事経験もなく、経営の知識もないところからスタートした堀木さんが、強い使命感を胸に前人未到のことを成し遂げ、世界的なクリエーターとなったことは周知の事実です。並大抵でない意志と実行力だったはずですが、「問題意識を持ってひとつひとつ解決してきただけ。自然な流れです」と軽やかに語ります。「革新的な和紙とよく言われますが、新しいものを創るために常に原点に立ち戻ります。原理原則を考え抜けば今までにない手法が見つかり、新しい創作にも繋がっていく。出来る前提でしか物事を考えません」。簡潔で力強いその流儀で走り続け、特許を取るほどの新技術を生みだし、斬新で魅力的な和紙を創作してきました。和紙制作の拠点は2ヵ所あり、福井の工房では職人とのコラボで昔の技を未来に繋ぐ作品を、京都では大きなもの・立体的なものを革新的な手法で、将来の伝統を育てる活動をしています。明確に分けることで広範囲に活動しても軸がぶれず、「堀木エリ子にしかできない和紙の創作」を実現しています。その創作と思考の根底にあるものとは。「自然への畏敬の念、人間の命に対する祈りです。和紙作りは100%思い通りにはならないもの。その時々の水の流れや10人の漉き手の息づかいや動きといった偶然があって完成します。そうした自然が生む偶然もデザインとして計算し、作品を完成させます」。ここ数年来、日本海に面した京都府宮津に別荘を持ち、週末を過ごすようになって、さらに自然に学ぶことも多くなったといいます。「海、空、緑。雲の流れ、季節ごとの風。紺色から瑠璃色へと染まり、一瞬、無になる日本海の夕暮れの美しさ。自然は、無数の造形や感動的な色の宝庫です。天橋立を眺めながら蒲鉾をかじってシャンパンを飲んで(笑)。自然にいやされて、次の出発点に立つ力をもらいます」。夢を言葉にして人に伝え、実現させてきた堀木さんの今の夢は、「和紙で培った手法を多彩な業界で活かすこと」。その言葉通り、空間全体の設計からチョコレートのパッケージデザインまでワクワクする仕事を実現し、堀木さんの宇宙は広がっています。堀木さんは背筋のピンと伸びたシャープで美しい人。その素顔は、お酒も楽しみ朗らかにくつろぎながらも、人をもてなす時、たこ焼きパーティなら和風、中華風、イタリアンの変わり種をずらりと揃え、壮麗なテーブルに仕立てずにいられないほど、遊びにもとことん完璧な愛とサービス精神にあふれる人。自利でなく利他をモットーに自己の芸術を突き詰め、言葉が織りあげた夢を実現させ、その成果でまた私たちを感動させるに違いありません。